【一心不乱】何か一つのことに心を集中して、他のことに心を奪われないさま。一つのことに熱中して、他のものに注意をそらさないさま。
ソレ。今の俺はソレ。
場所は自宅。キッチンの前。まな板の上には餃子の皮と、具材と、水の入ったボウル。BGMはなし。まったくの無音の中、俺は餃子を「一心不乱」に包む。冷蔵庫の中にはキンキンに冷えたキリン・ラガー。
餃子といっても「なんちゃって餃子」だ。具材は豚しゃぶ用の豚肉と、大葉。餃子の皮にこれらの具を乗っけてチューブにんにくをポチっと乗せる。この作業を二十回繰り返す。
餃子欲は唐突にやってくる。そしてその欲望は苛烈だ。オペラ『ドン・ジョヴァンニ』の地獄の炎のように我が身を焦し、人間存在の脆さを知る……えーと、とにかく孤独に餃子が食べたくなる日があるということだ。
餃子を食べると決めたら、俺は餃子しか食べない。ご飯やスープなんかは無し。俺は「餃子」が食べたいのであって、ご飯やスープが食べたいわけではない。だからこそ、調味料にはこだわりたい。基本は醤油、辣油、お酢で食べる。ブラックペッパーもアリ。ポン酢でさっぱりと、というのも魅力的だ。
先日、知人がInstagramで「餃子にモイオットチャンも合うよ」と言っていた。「モイオットチャン……?」調味料マニアの俺としては調べないわけにいかず、どうやらカルディで販売しているということを知り、ソッコー吉祥寺のカルディで購入してきた(我がホームタウン西荻窪には売ってなかった)。
十八枚餃子を包み終わったところで豚肉がなくなる。豚肉の消失に一瞬目の前が暗くなるけれど(豚肉の消失という詩を書き、朗読したくなるぐらいだ)、俺の炎は消えない。冷蔵庫を開けて具になるようなものを探す。豆腐、納豆、厚揚げ、切れてるチーズ…(なぜ我が家の冷蔵庫は豆類が幅を利かせているんだ?)このラインナップだったらチーズだな。
餃子の皮にチーズを挟む。ぬりかべのような可愛いフォルムが好ましい。
腕をまくって焼きの工程に進む。
フライパンに油をひいて餃子を並べていく。ジュゥゥゥゥゥゥウ……!
「……。」
俺と餃子との無言の対話が始まる。
さあ、悔い改めよ…
いやだ
生き方を変えろ…
いやだ!
もう時間切れだ…
(ここで水を投入)
ジュゥゥゥゥゥゥウ……!!!!
一人ドン・ジョヴァンニごっこをしながら餃子が焼かれるのを眺める。
水分が暴れ回り、俺は餃子を引き上げるタイミングを計る。ここが肝要だ…
「……今だ!」
俺はフライパンの蓋を持ち上げて、フライ返しを餃子の下に潜り込ませる。大皿めがけて勢いよく餃子を引っ繰り返す。
「あ……」
何個かの餃子は炎に焼かれて「地獄落ち」になっていた。
「ちょっと焦げてんじゃん」
俺は俺に話しかける。
「焦げたぐらいが美味いんだって」
俺は俺に答える。
大皿に並べた餃子をテーブルに持っていって、冷蔵庫からキリンラガーを取り出す。熱々の餃子をポン酢に浸して口の中に入れる。今度は黒コショウとお酢で食べる。ビールで喉を潤してから、さあ、ポン酢にモイオットチャンを投入。餃子をたっぷり浸して口に運ぶ。
「美味い……?」
未知な味わいに脳が反射的に疑問という形をとった。咀嚼して喉の奥を通過したときに解が示される。
「美味い」
餃子は孤独が似合う。
ちょい足しレシピ なんちゃって餃子
【材料】
餃子
餃子の皮
大葉
豚しゃぶの豚肉
冷蔵庫にある何か
つけダレ
醤油
辣油
お酢
黒コショウ
モイオットチャン
【作り方】
①身を焦す餃子欲に襲われ読みかけの本を閉じる
②餃子の皮に大葉と豚肉を入れ、チューブにんにくをポチっと乗せる
③一心不乱に包む(無音推奨)
④フライパンに油をひく
⑤餃子を並べ、焼かれる餃子たちと対話をする
⑥お好みのつけダレで餃子を楽しむ
孤独と向き合う餃子レシピ
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