モイオットチャン・ストーリー 第四話 ワガツマの場合



【一心不乱】何か一つのことに心を集中して、他のことに心を奪われないさま。一つのことに熱中して、他のものに注意をそらさないさま。

ソレ。今の俺はソレ。

場所は自宅。キッチンの前。まな板の上には餃子の皮と、具材と、水の入ったボウル。BGMはなし。まったくの無音の中、俺は餃子を「一心不乱」に包む。冷蔵庫の中にはキンキンに冷えたキリン・ラガー。



餃子といっても「なんちゃって餃子」だ。具材は豚しゃぶ用の豚肉と、大葉。餃子の皮にこれらの具を乗っけてチューブにんにくをポチっと乗せる。この作業を二十回繰り返す。


餃子欲は唐突にやってくる。そしてその欲望は苛烈だ。オペラ『ドン・ジョヴァンニ』の地獄の炎のように我が身を焦し、人間存在の脆さを知る……えーと、とにかく孤独に餃子が食べたくなる日があるということだ。


餃子を食べると決めたら、俺は餃子しか食べない。ご飯やスープなんかは無し。俺は「餃子」が食べたいのであって、ご飯やスープが食べたいわけではない。だからこそ、調味料にはこだわりたい。基本は醤油、辣油、お酢で食べる。ブラックペッパーもアリ。ポン酢でさっぱりと、というのも魅力的だ。

先日、知人がInstagramで「餃子にモイオットチャンも合うよ」と言っていた。「モイオットチャン……?」調味料マニアの俺としては調べないわけにいかず、どうやらカルディで販売しているということを知り、ソッコー吉祥寺のカルディで購入してきた(我がホームタウン西荻窪には売ってなかった)。


十八枚餃子を包み終わったところで豚肉がなくなる。豚肉の消失に一瞬目の前が暗くなるけれど(豚肉の消失という詩を書き、朗読したくなるぐらいだ)、俺の炎は消えない。冷蔵庫を開けて具になるようなものを探す。豆腐、納豆、厚揚げ、切れてるチーズ…(なぜ我が家の冷蔵庫は豆類が幅を利かせているんだ?)このラインナップだったらチーズだな。

餃子の皮にチーズを挟む。ぬりかべのような可愛いフォルムが好ましい。


腕をまくって焼きの工程に進む。

フライパンに油をひいて餃子を並べていく。ジュゥゥゥゥゥゥウ……!

「……。」

俺と餃子との無言の対話が始まる。


さあ、悔い改めよ…

いやだ

生き方を変えろ…

いやだ!

もう時間切れだ…

(ここで水を投入)

ジュゥゥゥゥゥゥウ……!!!!


一人ドン・ジョヴァンニごっこをしながら餃子が焼かれるのを眺める。

水分が暴れ回り、俺は餃子を引き上げるタイミングを計る。ここが肝要だ…

「……今だ!」

俺はフライパンの蓋を持ち上げて、フライ返しを餃子の下に潜り込ませる。大皿めがけて勢いよく餃子を引っ繰り返す。

「あ……」

何個かの餃子は炎に焼かれて「地獄落ち」になっていた。

「ちょっと焦げてんじゃん」

俺は俺に話しかける。

「焦げたぐらいが美味いんだって」

俺は俺に答える。


大皿に並べた餃子をテーブルに持っていって、冷蔵庫からキリンラガーを取り出す。熱々の餃子をポン酢に浸して口の中に入れる。今度は黒コショウとお酢で食べる。ビールで喉を潤してから、さあ、ポン酢にモイオットチャンを投入。餃子をたっぷり浸して口に運ぶ。

「美味い……?」

未知な味わいに脳が反射的に疑問という形をとった。咀嚼して喉の奥を通過したときに解が示される。

「美味い」

餃子は孤独が似合う。


ちょい足しレシピ なんちゃって餃子


【材料】

餃子

 餃子の皮

 大葉

 豚しゃぶの豚肉

 冷蔵庫にある何か


つけダレ

 醤油

 辣油

 お酢

 黒コショウ

 モイオットチャン

 

【作り方】

①身を焦す餃子欲に襲われ読みかけの本を閉じる

②餃子の皮に大葉と豚肉を入れ、チューブにんにくをポチっと乗せる 

③一心不乱に包む(無音推奨)

④フライパンに油をひく

⑤餃子を並べ、焼かれる餃子たちと対話をする

⑥お好みのつけダレで餃子を楽しむ


孤独と向き合う餃子レシピ



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